水素のエビデンス
はじめに

水素ガス(H₂)は選択的抗酸化作用を持つ新しい治療手段として注目されています。​2007年の大田俊昭らの報告により、水素がヒドロキシルラジカルなどの有害な活性酸素種(ROS)を選択的に除去し、脳虚血による損傷を軽減することが示され、大きな話題となりました​。それ以来、水素の医療応用に関する研究報告は急増し、2023年時点で関連論文は2000報以上にのぼります​。基礎研究(細胞・動物)からヒト臨床試験まで幅広く実施され、抗酸化抗炎症神経保護心血管保護疲労回復など多彩な健康効果が報告されています。本レポートでは、chatGPT4oの「Deep Research」を活用し、水素の代表的な健康効果についての最新エビデンスを概観し、具体的データや統計情報を交えて解説します。また、日本の公的機関などによる見解や臨床応用上の注意点にも触れます。

抗酸化作用(活性酸素の除去)

水素の最も基礎的な効果は抗酸化作用です。H₂分子は非常に小さく細胞膜やミトコンドリア内部に容易に侵入し、ヒドロキシルラジカル(•OH)や過酸化亜硝酸(ONOO⁻)と反応して無害化します。​frontiersin.org 一方で、生体に必要なシグナル分子であるスーパーオキシドや過酸化水素、一酸化窒素とはほとんど反応しないため、「都合の良い」抗酸化剤として働きます。​frontiersin.org この選択的抗酸化特性により、過剰な抗酸化剤がかえって有害となるリスクを避けつつ、組織の酸化ストレスを低減できると期待されています。​mdpi.com

基礎研究から得られた知見

初期の基礎研究では、水素ガス吸入により脳虚血再灌流障害を受けたラットの脳梗塞サイズが大きく縮小し、神経学的機能が改善しました。​mdpi.com これは水素がヒドロキシルラジカルを消去した結果と考えられ、これを報告した大田らの論文は世界的医学誌に掲載されました(Nature Medicine 2007)​mdpi.com。また、培養細胞レベルでも、水素水が過剰なROSによる酸化障害や細胞老化を抑制することが示されています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov 例えば、マウス胎児線維芽細胞で過剰ROSにより増加する脂質過酸化や細胞老化マーカーが、水素水の添加で有意に抑えられています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

ヒト臨床での抗酸化効果

ヒトを対象とした研究でも、水素摂取による抗酸化指標の改善が報告されています。代表的な例として、代謝症候群予備群の被験者20人を対象に8週間の水素水摂取試験が行われました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。1日1.5~2リットルの水素豊富水(濃度0.55~0.65 mM)を飲用した結果、抗酸化酵素SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)の活性が39%増加し、尿中の過酸化物質(TBARS)が43%減少しました。(いずれも統計的有意)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。わずか8週間で酸化ストレス指標が大きく改善したことから、「水素水は代謝症候群の新規予防・治療戦略となり得る」と結論づけられています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。また別の試験では、激しい運動を3日間連続で行った際に生じる血中抗酸化能の低下が、水素水の飲用によって有意に抑制されることも報告されています。​mdpi.com。運動後に起こりがちな抗酸化力の低下や酸化ストレス増加を、水素が緩和する可能性を示す結果です。さらに、水素水の摂取により尿中8-OHdG(酸化的DNA損傷マーカー)の有意な低下も観察されており​pmc.ncbi.nlm.nih.gov、これらは実際にヒトの体内で水素が抗酸化剤として作用している直接的な証拠といえます。

抗炎症作用(炎症性サイトカインの抑制)

水素には抗酸化だけでなく抗炎症作用もあることが多くの研究で示唆されています。​pmc.ncbi.nlm.nih.govpmc.ncbi.nlm.nih.gov。酸化ストレスと炎症は密接に関連しており、過剰なROSはNF-κB経路の活性化などを通じて炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)の放出を促します。一方で、水素はこのROS-炎症カスケードを上流で抑制することで炎症を和らげると考えられています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

動物モデルでの抗炎症効果

コラーゲン誘発関節炎モデル(リウマチモデルマウス)では、水素水の投与によって関節の炎症と破壊進行が遅延し、炎症性サイトカインの産生が低減しました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。また、急性肺障害モデルでは、水素ガスが肺組織の炎症浸潤やNF-κBの過剰活性化を抑制し、炎症による組織傷害を軽減しています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらの基礎研究は、水素が慢性炎症性疾患や急性炎症性傷害に有用である可能性を示しています。

ヒト臨床研究での抗炎症所見

ヒトでも、水素摂取に伴う炎症マーカーの変化が報告されています。関節リウマチ(RA)患者を対象としたオープンラベル試験では、1日あたり約5 ppmの水素水を飲用させ、症状と炎症指標を観察しました。その結果、20人中18人で関節リウマチの活動性スコア(DAS28)が低下し、特に12人ではDAS28が0.6超減少(中等度改善以上)するなど、有意な症状改善が認められました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらに酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGの有意な低下も観察され、水素摂取により炎症と酸化ストレスがともに軽減したと考えられます。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。研究陣は、水素によるヒドロキシルラジカル除去が炎症性TNF-α経路の抑制につながり、RA症状を改善した可能性を指摘しています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

また健常成人を対象としたプラセボ対照二重盲検RCTでは、1.5 L/日の水素水を4週間飲用した群で抗炎症作用に関連する興味深い免疫学的変化が報告されました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には、水素水群で末梢血中のCD14陽性細胞(炎症性単球)の割合が有意に減少し、同時に抗酸化能の指標が上昇したのです。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。これは水素水が炎症反応を抑制し、抗酸化防御を高めたことを示唆しています。さらに、日本で行われた心停止後症候群患者の予備的研究では、2%水素ガス吸入により血中の炎症性サイトカインレベルが低下する傾向が観察されています。​mdpi.com。以上のように、水素はヒトにおいて炎症性サイトカインの産生抑制や免疫細胞の調整を通じて抗炎症作用を発揮する可能性があります。これらの効果は、リウマチや喘息、炎症性腸疾患など慢性炎症疾患の新たな補助療法として期待を集めています。

神経保護作用(認知症・パーキンソン病の進行抑制)

脳や神経系への神経保護作用も水素研究の主要なテーマです。脳は酸化ストレスや炎症によるダメージを受けやすく、アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)などではROSと慢性炎症が病因に関与します。水素は前述の抗酸化・抗炎症効果を介して神経細胞を保護し、神経変性疾患の進行を遅らせる可能性が示唆されています。

動物実験でのエビデンス

アルツハイマー病モデルマウスやパーキンソン病モデルマウスに水素を投与した複数の研究で、脳内の神経変性の進行抑制が観察されています。​mdpi.com。例えば、PDモデルマウスでは、水素水投与群でドーパミン神経細胞の脱落が抑えられ、運動機能障害が軽減しました。​mdpi.com。また、ADモデルでは水素水が脳内の酸化ストレスと炎症反応を低減し、認知機能の低下を緩やかにする結果が報告されています。​mdpi.com。これらの基礎研究は、水素が神経変性にブレーキをかける作用を有することを示しています。

認知症に対する効果(ヒト研究)

軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー病患者を対象とした臨床研究もいくつか実施されています。軽度認知障害(MCI)患者73名を対象にした二重盲検試験では、300 mL/日の水素水またはプラセボ水を1年間飲用させ、認知機能の指標ADAS-cog(アルツハイマー病評価スケール-認知部分)で評価しました。​mdpi.com。全体集団では1年後に水素群とプラセボ群間でADAS-cogスコアの有意差はありませんでしたが、アルツハイマー病リスク因子APOE4を持つサブグループに限ると、水素水を飲んだ群でADAS-cog合計スコアの有意な改善が見られました。​mdpi.com。APOE4保有者は認知症進行が早い傾向がありますが、その進行を水素が緩和した可能性があります。この結果から遺伝的要因によって水素の効果に差が出ることが示唆され、認知症領域での水素療法の可能性と課題が浮き彫りになりました。​mdpi.com

また、アルツハイマー型認知症患者8名を対象に3%水素ガスの吸入療法を行った予備研究では、6か月後にADAS-cogスコアの改善が認められ、拡散テンソルMRIで神経線維の保全傾向も観察されました。​mdpi.com。しかし1年後には有意差が消失したとの報告もあり、効果維持には継続治療や併用療法が必要かもしれません。​mdpi.com。以上より、水素は認知機能の維持改善に一定の効果を示すものの、その効果量は限定的であり、特に遺伝背景などによって左右される可能性があります。

一方、水素と他治療の併用による効果も模索されています。あるパイロット研究では、PD患者18名に対し毎日水素水を飲用しながら経頭蓋光療法(近赤外線による光生体調節)を2週間施行したところ、UPDRS総スコアがベースラインから有意に改善しました。​mdpi.com。著者らは「光療法で生じる追加のROSを水素が除去し、相乗効果を発揮した可能性」を述べています。​mdpi.com。このように、PDに対する水素療法の単独での有効性は現状明確でないものの、副作用が極めて少ないことから標準治療への上乗せ療法として試みる価値はあるとの意見もあります​mdpi.com。総じて神経領域では、水素は酸化ストレス・炎症の軽減を通じて神経細胞を保護し、疾患進行を緩やかにする可能性を示していますが、その効果の大きさについては今後さらなる大規模臨床試験で検証が必要です。

心血管保護作用(血圧低下・動脈硬化抑制)

酸化ストレスと慢性炎症は動脈硬化や高血圧など心血管疾患の主要な原因です。水素による抗酸化・抗炎症作用は血管機能の改善や心臓保護にもつながると期待されています。近年の研究では、水素が血管内皮機能を改善し、心筋へのダメージを軽減する可能性が示されています。

血管内皮機能の改善

血管の健康度をはかる指標の一つにFlow-Mediated Dilation (FMD)があります。これは上腕動脈を一時的に圧迫後に拡張する度合いを測定するもので、内皮由来の一酸化窒素(NO)による血管拡張能を反映します。ある研究では、健康な男女16名を対象に水素水(H₂濃度7ppm, 500mL)を単回摂取させ、摂取30分後のFMD変化をプラセボ水と比較しました。その結果、水素水摂取群ではFMDが6.80%から7.64%へと改善(+0.84ポイント)し、逆にプラセボ群では8.07%から6.87%へ低下(-1.20ポイント)しました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。両群の変化率を比較すると、水素群で有意な内皮機能改善が認められています(p<0.05)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。この結果は、水素によって血管のNO依存性拡張反応が維持・増強されたことを示唆します。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。研究者らは、水素が血流に伴う酸化ストレスから内皮を保護し、血管のしなやかさを保つ手助けをしている可能性を指摘しています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。また、8週間の水素水飲用試験で観察されたHDLコレステロールの8%上昇と総コレステロール/HDL比の13%低下pmc.ncbi.nlm.nih.govも、間接的に動脈硬化リスクの改善を示す所見です。以上より、水素は動脈硬化予防につながる血管機能改善効果を持つ可能性があります。

心臓への保護効果

心筋梗塞や心停止後症候群といった重篤な心血管イベントに対する水素の効果も検討されています。日本で行われた心停止後症候群患者10名の臨床研究では、低体温療法中に2%水素ガスを吸入する群と対照群で予後を比較しました。その結果、水素吸入群は対照群に比べて90日後の生存率が有意に高率でした。(ただし神経学的予後の改善傾向は統計的有意差なし)​mdpi.commdpi.com。また、心筋梗塞後の患者20名を対象に、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後から1.3%水素ガス吸入を開始し6か月間追跡した試験では、左心室の一回拍出量指標(SVI)や駆出率(EF)の改善幅が対照群より大きいという結果が得られています。​mdpi.com。この差は有意には達しなかったものの、心機能改善傾向が示されたことで、さらなる大規模試験の必要性が提案されました。​mdpi.com

さらに興味深いのは、血液透析患者における報告です。慢性腎不全の透析では酸化ストレスと血圧変動が問題となりますが、日本の研究で透析液に水素を添加すると炎症反応が和らぎ透析中の血圧低下が改善するとの報告があります。​frontiersin.org。これは水素がレニン・アンジオテンシン系(RAAS)の過剰活性や慢性炎症を抑制し、血圧維持に寄与した可能性があります。​frontiersin.orgfrontiersin.org。また動物実験ですが、食塩負荷高血圧ラットにビタミンCと水素豊富水を与えると収縮期血圧の上昇が有意に抑えられたとの結果も報告されています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

以上のように、水素は血管を拡げて血流を改善し、心筋や血管を酸化障害から守る作用が示唆されます。これらは高血圧や動脈硬化の予防・改善につながる可能性があり、将来的には心血管疾患に対する補助療法として期待されています。ただし、大規模な臨床試験で明確なエンドポイント(心筋梗塞発生率や長期予後など)への有用性が示されたわけではないため、今後のエビデンス蓄積が必要です。

疲労回復・スポーツパフォーマンス向上

水素はアスリートの間でも疲労回復ドリンクとして注目されており、運動による酸化ストレス軽減やエネルギー代謝改善を通じたパフォーマンス向上効果が研究されています。​frontiersin.org。【抗酸化】【抗炎症】という水素の特徴は、激しい運動で生じる筋肉の酸化ダメージや炎症(筋肉痛)の軽減に役立つと考えられます。​frontiersin.org。また、細胞レベルでは水素がミトコンドリア機能を高めATP産生を促進するとの報告もあり​frontiersin.org、エネルギー代謝の効率化による持久力向上も期待されています。

運動パフォーマンスへの効果

最近の研究で、水素水の摂取が筋持久力やパワー発揮を向上させることが示されました。中国のグループによる無作為化クロスオーバー試験では、トレーニングを積んだ若年男性18名に対し、1日約1.9リットルの水素水を8日間飲用させました​frontiersin.org。その上でレジスタンストレーニング(70%1RMのハーフスクワットを6セット反復限界まで)を行い、水素水摂取時とプラセボ時でパフォーマンスを比較しています。結果は、水素水摂取時の方が総仕事量(発揮パワー積算)と総反復回数が有意に増加しました。​frontiersin.org。具体的には、水素群の総発揮パワーは約50.87 kJでプラセボ群の46.43 kJを約10%上回り(p=0.032)、総反復回数も水素群78.2回に対しプラセボ群70.3回と11%多く遂行できました(p=0.019)​frontiersin.org。一方で、運動後の筋肉痛(VAS)や主観的疲労回復スコアには両群で有意差が認められず、水素単独ではパフォーマンス向上効果はあるが筋肉痛の軽減効果は顕著でないことが示唆されました。​frontiersin.orgfrontiersin.org。著者らは「水素水の短期介入で筋持久力が改善されたのは注目すべき成果であり、競技者の持久的パフォーマンス向上に有用かもしれない」と結論づけています。​frontiersin.org

疲労回復・筋損傷軽減への効果

運動後の疲労回復促進についても、水素は一定の効果を示しています。チェコで行われたエリート競泳選手を対象とした二重盲検クロスオーバー試験では、2回の過酷なトレーニング後の回復期に水素水またはプラセボ水を摂取させ比較しました。その結果、水素水を飲んだ場合は筋損傷の指標である血中クレアチンキナーゼ(CK)の上昇が抑制され、運動翌日の筋肉痛(DOMS)の自己評価が軽減しました。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には、水素群はプラセボ群に比べCKが約18%低く(156 U/L vs 190 U/L, p=0.043)、筋肉痛のVASスコアも19%減少しました(34 mm vs 42 mm, p=0.045)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。さらに、疲労によって低下するはずの瞬発力も水素群で維持され、12時間後の垂直跳び(CMJ)の高さが有意に高かったのです(30.7 cm vs 29.8 cm, p=0.014)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらのデータは、水素摂取が筋組織のダメージを軽減し、回復を早めることを示唆しています。機序としては、水素が運動による過剰な活性酸素を消去し、炎症性サイトカインの放出を抑えることで筋細胞の壊死や炎症を減らしている可能性があります。​frontiersin.org。実際、他の研究でも水素水入浴が筋肉痛を和らげる傾向が報告されており(Todorovicら, 2020)、アスリートのコンディショニング支援への応用が期待されています。

以上より、水素は運動のパフォーマンスを底上げし、疲労回復をサポートする効果が示唆されます。ただし、中には「水素水の急性摂取で持久走タイムに変化なし」という報告もあり​frontiersin.org、効果は運動の種類や摂取方法によって異なるようです。総合的には、水素のスポーツ領域への応用はまだ研究途上ですが、その抗酸化・抗炎症作用を通じた疲労軽減効果には科学的な裏付けが蓄積されつつあります。

各研究結果の比較表

水素の健康効果に関する主要な研究結果を表にまとめます。それぞれの効果カテゴリーについて、代表的なヒト試験の主な成果を示しました。

効果カテゴリー研究対象【出典】主な結果・数値データ
抗酸化作用代謝症候群予備群20名、8週間水素水1.5–2L/日(非対照)​pmc.ncbi.nlm.nih.govSOD酵素活性 +39%尿中TBARS -43%(p<0.05)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
HDLコレステロール +8%、総コレステロール/HDL比 -13%​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
抗炎症作用関節リウマチ患者20名、4週間水素水5ppm(オープンラベル)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov症状改善:20人中18人でDAS28スコア低下(うち6人中等度改善、6人良好改善)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
酸化ストレス低減:尿8-OHdG有意低下​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
神経保護(認知症)軽度認知障害(MCI)患者73名、12か月水素水300mL/日 vs プラセボ(二重盲検RCT)​mdpi.comAPOE4保有サブグループでADAS-cog認知スコア有意改善(H₂群でスコア改善)​mdpi.com
全体集団ではADAS-cogスコア差なし​mdpi.com
神経保護(パーキンソン病)PD患者18名、48週間水素水1L/日 vs プラセボ(二重盲検RCT)​mdpi.comUPDRSスコア改善:H₂群で運動機能スコア有意改善(ベースライン比)​mdpi.com
(大規模RCTでは有効性認めず​mdpi.com
心血管保護(血管機能)健康成人16名、単回水素水7ppm 500mL vs プラセボ(クロスオーバー)​pmc.ncbi.nlm.nih.govFMD(血管拡張反応)改善:H₂群6.80%→7.64% (+0.84pp)、プラ群8.07%→6.87% (–1.20pp)、変化差有意​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
心血管保護(心機能)心筋梗塞患者20名、PCI後6か月間水素ガス1.3%吸入(対照あり)​mdpi.com左室機能改善傾向:6か月後の左室一回拍出量指数+駆出率の改善幅が対照群より大(有意差無し)​mdpi.com
※90日生存率は心停止後患者で有意改善​mdpi.com
疲労回復(筋持久力)トレーニング男性18名、8日間水素水1.9L/日 + 運動時適宜摂取(クロスオーバーRCT)​frontiersin.org筋持久力向上:総仕事量 約50.9 kJ vs 46.4 kJ(+10%, p=0.032)、総反復回数 78.2回 vs 70.3回(+11%, p=0.019)​frontiersin.org
疲労回復(筋損傷)エリート競泳選手(男女)9名、2回運動後の回復期に水素水 vs プラセボ(クロスオーバーRCT)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov筋損傷軽減:運動12時間後CK 156 vs 190 U/L (–18%, p=0.043)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
筋肉痛軽減:VAS 34 vs 42 mm (–19%, p=0.045)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
パワー回復:垂直跳び高 30.7 vs 29.8 cm (+0.9 cm, p=0.014)​pmc.ncbi.nlm.nih.gov

pp = パーセンテージポイント(絶対差)。

このように、各分野の研究で水素の有望な効果が報告されていますが、効果の程度や統計的有意性は研究によって様々です。一部ポジティブな結果(例:抗酸化指標の大幅改善や運動パフォーマンス向上)がある一方、神経疾患の大規模試験で有意差が出ないケースもありました。したがって、これらのデータは**「可能性」を示す段階**であり、効果を断定するには今後さらに質の高い研究の蓄積が必要です。

公的機関の見解と安全性

水素の健康効果については世間の関心が高まっていますが、公的機関は慎重な立場を示しています。日本の国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所は、「水素水が活性酸素を除去する癌を予防するダイエット効果がある等と俗に言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない」と指摘しています。​kokusen.go.jp。また「現時点でヒトにおける水素水の有効性・安全性の検討はほとんどが疾患を有する患者対象の予備的研究であり、健常人への明確な効果を裏付ける科学的根拠は十分ではない」と述べています。​kokusen.go.jp。このため、「市販の水素水製品の効果を過信すべきではなく、体内で日常的に産生されている水素の量も考慮すべき」といった注意喚起もなされています。​kokusen.go.jp。つまり、現状では水素水・水素ガスは医薬品ではなく健康食品や補完療法の位置付けであり、その効果や品質には玉石混交の面があることに注意が必要です。

一方、治療応用に向けた動きも進んでおり、慶應義塾大学医学部では、心停止後症候群に対する水素ガス吸入療法が先進医療制度で試験的に導入されるなど、医療現場での検証も始まっています。安全性の面では、水素は元々体内の腸内細菌が日常的に産生する物質でもあり、適切な濃度で用いれば重篤な有害事象はほとんど報告されていません。mdpi.com。ただし、水素ガスは可燃性があるため高濃度(4%超)を扱う際は引火・爆発に注意が必要です。一般的な治療濃度である1–4%程度であれば空気中で安全に使用できます。​mdpi.com。水素水飲用についても、通常の範囲であれば副作用の心配はありません。

おわりに

水素(H₂)は、その抗酸化・抗炎症作用を通じて多方面の健康効果をもたらす可能性が示されています。基礎研究では脳や心臓、関節などでの保護作用が確認され、初期の臨床研究でも酸化ストレスの低減pmc.ncbi.nlm.nih.gov炎症マーカーの低下pmc.ncbi.nlm.nih.gov血管機能の改善pmc.ncbi.nlm.nih.gov認知・運動機能の僅かな向上mdpi.comfrontiersin.orgといった有望な結果が得られています。特に生活習慣病や老化に伴う酸化炎症ストレスの緩和スポーツ分野でのリカバリー促進は興味深い応用領域です。しかし、その一方でエビデンスには規模や質の限界があり、効果が一貫しない報告も存在します。2024年の系統的レビューでも「初期の臨床試験結果は有望だが、サンプルサイズが小さく手法もまちまちで、更なる大規模かつ厳密な研究が必要」と結論づけられています。​pmc.ncbi.nlm.nih.gov。水素の作用メカニズムも未解明の部分が多く、今後の研究で遺伝要因や他治療との相乗効果も含め解明が進むでしょう。​mdpi.commdpi.com

総合すると、水素は安全で汎用性の高い付加療法として大きな可能性を秘めています。心血管疾患や神経疾患、炎症疾患など主要な疾病領域において補助的な治療効果が示唆され、スポーツや美容・アンチエイジングの分野でも応用が模索されています。現在進行中の臨床試験も数多く(臨床登録ベースで100件以上)あり​mdpi.com、エビデンスは日々アップデートされています。今後、さらに質の高いエビデンスが蓄積されれば、世界保健機関(WHO)や各国厚生当局による評価も定まってくるでしょう。現時点では、公的には「研究途上の有望な療法」との位置付けですが、近い将来、科学的根拠に基づいた水素利用法が健康増進や疾患治療に組み込まれる可能性があります。当社でも先駆けて水素吸入器を導入しておりますので、引き続き最新の知見に注目したいと考えています。

研究および監修:アップビー代表 鵜殿 隆太朗

参考文献・出典(論文一部抜粋):

  • Ohsawa et al., Nat. Med. (2007) – 「水素ガスが選択的抗酸化剤として作用する」​mdpi.commdpi.com
  • Kajiyama et al., J. Clin. Biochem. Nutr. (2010) – 「水素水飲用による代謝症候群患者の酸化ストレス改善」​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  • Ishibashi et al., Med Gas Res. (2012) – 「水素水が関節リウマチ患者の疾患活動性を低減」​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  • Nishimaki et al., Clin. Biochem. Nutr. (2018) – 「軽度認知障害に対する水素水のRCT」(APOE4保有者で効果)​mdpi.com
  • Yoritaka et al., Parkinsonism Relat. Disord. (2013) – 「パーキンソン病患者に対する水素水臨床試験」​mdpi.com
  • Dobashi et al., Med Gas Res. (2020) – 「水素水が運動後の抗酸化能低下を抑制」​mdpi.com
  • Sládečková et al., Front Physiol. (2024) – 「水素水がエリート選手の筋肉疲労回復を促進」​pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  • Zhou et al., Front Physiol. (2024) – 「水素水が筋持久力パフォーマンスを向上」​frontiersin.org
  • Johnsen et al., Molecules (2023) – 「水素療法の臨床研究レビュー(81試験の総括)」​mdpi.commdpi.com
  • 厚生労働省・医薬基盤健康栄養研究所 「『健康食品』の安全性・有効性情報(No.3259 水素水)」​kokusen.go.jp など.